堀木

私には、『人間失格』に登場する「堀木」みたいな友がいる。悪友とも言えるかもしれないが、私に遊びを紹介してくれた人だ。正直、大学院時代は、研究会の打ち上げや送別会くらいのものでしか、飲みに出かけることはしなかったが、大学の外に出てから、社会人の彼と飲みに行くことがあった。

私が連絡を取ることができる地元の人は、彼以外にはいない。たしかに、結婚式などで、野球部の連中と再会することがあったが、その機会も一段落(?)した感じだ。「堀木」君は、実は、中学の時に部活を辞めたので、地元の連中と彼が話していることも、ほとんど見たことがない。もしかしたら、同じ「はぐれ者」なのかもしれない。

たしか、彼との再会は、大学時代に、互いの最寄り駅で、声をかけてもらったことだった。彼の社交性は、もしかしたら、生来のものかと思わせてくれるが、その反面も、内面に持ち合わせていることが、その後のつきあいから分かってきた。

彼は、「堀木」とは真面目な話をしたことがない、と別の人に言わしめるような人物なのだ。その彼が、やはり部活を辞めたとか、受験が不本意に終わったとか、そのような過去を思い浮かべる時が、たとえ一瞬でもあるのだ。

彼は、社会人としては私よりも優秀であるため、30を越えてもきちんと働かない私に対して、時には厳しい言葉を投げかけてきたこともある。しかし、不思議と、彼が飲み屋で、私のことを「親友」とは言えないと他の人に言っていようが、私の方から、彼と連絡を切ろうと思ったことがない。

暗い過去を引きずっているからこそ、彼の発言には、なかなか味がある。私が、そんな真面目に働いても、結局、会社が儲かっているだけで、私にはたいして得はなく、「踊られている」だけだと愚痴った。そうすると、彼は、「俺は自ら踊っている」のだと返してきた。

 このサイトでは、小説や文芸評論を取り上げながら、どうすれば「絶望」から「真実」をつかむことができるのかについて検討していきます。なお、『先導者たち』というブロマガサイトでも、筆者自身の闘病体験を踏まえて、文筆活動を行っています。

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