今回は、NHKテキストの100分 de 名著・岸見一郎「マルクス・アウレリウス『自省録』」(NHK出版、2019年)を取り上げます。アウレリウスは、ローマ帝国の皇帝でしたが、哲学に則った政治を志しました。私なりにまとめると、個人が「幸福」とは何かについて考えることによって、現実世界において、主体的に他者と協力してゆこうとしたのです。
アウレリウスによれば、愚かな他者に対しては、怒らないように、また、「死」や災害などの不条理な出来事に対しても、悲しまないようにするべきなのです。これらは、善でも悪でもないものであるため、価値判断をはさむことなく、受け入れる必要があります。
具体的に言えば、名誉・金などに、価値を置きすぎないようにすること、また、「死」は自然の神秘なのだと考えてみるのです。このように考えることができるかどうかによって、主体的に社会と関わり合うことができるかどうかが決まるのです。
アウレリウスの哲学の根幹は、情念から自由になって、己の内を省みることにあります。私たち人間は、「自然」中にいますが、その宇宙の法則(理性)を分かち持っているのです。この「理性」によって、「善く生きるとは何か」について判断していかなければならないのです。
岸見の解説によれば、アウレリウスの結論とは、人間は他者と協力するために生きているということです。なぜなら、他者との関係の中にこそ、「幸福」は存在するからです。もちろん、岸見が自身の経験に基づいて主張するように、何かを生み出すことだけが「善」ではなく、ただ生きているだけでも「善」だと言うことも可能かもしれません。
しかし、上記のようにまとめると明らかなように、アウレリウスが哲学と実践を通じて表現しようとしたこととは、「どのようにして個人は社会と主体的に関わり合うことができるか」ということです。彼の言葉が現代人にまで響いている理由とは、彼の「自力」の精神にこそあるのでしょう。彼は、受け身になって「生きているだけでよいのだ」と、自分を慰めて満足するような男では、決してなかったのです。