今北純一『自分力を高める』

 今回は、今北純一『自分力を高める』(岩波書店、2011年)を取り上げます。著者の今北は、1995年に、フランス政府より国家功績勲章を受章しています。このような栄誉を受けている著者から、「自分力」とは何かについて学びたいと思います。

 全体を通じて言えば、「自分力」とは、「自分が本当にやりたいことは何か」について問うことです。著者は、「テクノ・エコノミクス」をやりたいと考えて、技術と経済の組み合わせを追究しました。著者がとくに日本の若者に言いたいことは、人生の目的を見出すにあたって、他者と比べるのではなく、自分を見つめるべきだということです。

 著者は自身の経験も踏まえて、世界では、日本のように学歴だけでは通用しないと強調します。学歴や会社のブランドではなく、「個人」の力で勝負しなければなりません。それは、自分の頭で考え、自分に問いかけ、そして自分の価値観を見極めるということです。

 今北によれば、このように「個性を磨く」ことや、「自分の宇宙」を形作るということが「幸せ」なのです。というのも、そうすれば、誰かの人生をうらやむことなく、自らの「存在意義」を確認して、「自信」をもつことができるからです。

 そのような人物のみが、「創造」を生み出すことができるのです。今北によれば、「ソリューション」(問題解決)とは、情報や知識を組み合わせて、新たな価値を生み出すことです。そのためには、まず、受験勉強のように与えられた問題を解くという発想から脱却して、正解のない問いにいかに答えるかが、はるかに求められていることを認識するべきなのです。

 また、今北によれば、リスクをとることが必要です。現在の会社でやりがいを見出すことができないままいるよりも、冒険することによって、出会いや刺激が生まれます。そのような変化が、新たな発想を生み出すことは言うまでもありません。ただいずれにしても、そのリスクに耐えうるかどうかは、「自分がやりたいことは何か」についてきちんと問いかけているかどうかによって左右されます。

 私が興味深かったのは、今北がリスクをとったのはなぜかという点です。それは、本能や直感が彼に、このままでよいのかと問いかけてきたそうです。とはいえ、「夢」だけを追っていると、収入面の「安定」に欠けてしまうので、身の丈にあった夢や希望を選択しなければなりません。この「二律背反」を意識して、バランスを自分で判断するためにも、結局、「自己を知る」作業が不可欠なのです。

 このサイトでは、小説や文芸評論を取り上げながら、どうすれば「絶望」から「真実」をつかむことができるのかについて検討していきます。なお、『先導者たち』というブロマガサイトでも、筆者自身の闘病体験を踏まえて、文筆活動を行っています。

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