このサイトでは、個人の「歴史」を軸に据えて、「仮説」の「因果関係」を証明していきます。その理由は、「仮説」に関する記事で説明した因果推論を踏まえると、3点あります。
第1に、原因は結果よりも時間的に先行しているからです。したがって、時系列で事実関係を整理することは、「因果関係」の特定に資するのです。第2に、「絶望」に至る経緯を踏まえて、「絶望」の原因を発見して理解しなければ、「真実」や解決策は見えてこないからです。第3に、歴史研究によって、「偶然」の影響――第3の「疑似相関」――の程度を理解することができるからです。
とりわけ筆者が重視する点は、小説の歴史的叙述の中から“核心的論理”(メッセージと根拠)を抽出するという姿勢を貫くことです。具体的に言えば、次のような点に関心を払います。すなわち、作家が何を伝えたいがために、“核心的論理”を登場人物に述べさせているのか、また、どのような構成や展開で、その“核心的論理”を支えているのか、についてです。要するに、歴史的叙述とその“組み立て”を検証する必要があるということです。
より具体的に言えば、「相関関係」から「因果関係」に迫るために、現実と「反事実」を比較します。中室と津川によれば、「反事実」とは、「『仮に〇〇をしなかったらどうなっていたか』という、実際には起こらなかった『たら・れば』のシナリオのことを指す」(同上、36頁)。この比較によって、原因にどのくらいの効果があったのかを知ることができるのです。
以上の検証方法を支えるべく、別の手段や観点からもアプローチします。まず、作家が生む作品や取り上げる問題には、時代背景が影響しています。当然、舞台となっている時代において他者との関係は、市民社会や国家の影響を受けて成立しているでしょう。また、著名な作家の作品に関しては、その解釈をめぐって、すでに論争がなされている場合もあります。実際、文芸評論家たちは、重要な解釈上の論争を、文芸雑誌などで展開しています。
今後取り上げていく対象は、三島由紀夫や福田恆存の著作の他に、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』です。また、精神疾患との関連については、芥川龍之介『歯車』や島崎藤村『夜明け前』、そして夏目漱石『吾輩は猫である』『坊っちゃん』などが重要だと考えています。さらに、小説家の本分については、村上春樹の著作を検討します。